水仙
11月の後半ぐらいから格花で水仙の稽古が始まる。実際に咲くのは1月から2月なのだけれど、やはり先取りするのがいけばなではあるからか、少し早くから流通するというところだ。
水仙は、元々ヨーロッパや地中海沿岸を原産としているということだが、それが人手によってシルクロードを経て中国に伝わった。その中国は福建省の海岸地帯に群生していた水仙が、台風によって球根が海へ流れ、黒潮にのって日本海側の隠岐の島や越前海岸に打ち上げられて野生化したという話だ。(参照:「日本の花」柳宗民・著)
遠く中国から海流に乗って運ばれ沿岸部に漂着し群生するようになったというのは、なんともロマンのある話ではないだろうか。日本の三大群生地としてはその福井県の越前海岸、千葉県の南房総、そして兵庫県の淡路島が有名である。淡路島の灘黒岩水仙郷には一度行ったことがあるが、沿岸部の斜面に広い範囲で群生している風景はとても美しい。雪中花という別名があるが、厳寒の時期から咲き始めるその姿は、やがて来る春へと導いてくれる希望とも感じられる。
さて、その水仙は未生流の格花では長葉物というカテゴリーに分類される。
そしてハラン、杜若と並んで難しいとされている。
水仙の足元には白いハカマと呼ばれる表皮がある。扱いとしては、もともとそのハカマに収まっている花と葉を中から抜いて、葉のねじれを直して長さを調整し、花と共にハカマの中に戻してから形作る。これがなかなか難しく、ハカマに戻した後、葉が足元からバラバラだと格花の形に表現できない。4枚の葉と、花が途中まで一体化するよう、うまく葉をこなすことがとても重要である。葉先の表現も様々であるが、優しい、そしてしなやかな表情を引き出せるとなんとも嬉しい気持ちになる。
水仙を上手に入れるのには何年もかかる人が多いけれど、その難しさと出来上がった時の清楚で動きのある姿から、ハマる人が多いのも事実である。シーズンに3回はいけて、手を花に馴染ませたいものである。